Watches In Movies #2 2001:a space odyssey
2010.11.16
時計が登場する映画をご紹介します。今回取り上げるのはスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」(2001:a space odyssey)です。公開された1968年当時から33年後にあたる2001年を描いた映画ですが、この作品の中で実に興味深い「未来の腕時計」が出てきます。
劇中にチラッと登場するこの腕時計、製作したのはあのハミルトン。アメリカを代表する時計メーカーのひとつで、現在も人気のブランドです。数年前にトリビュートモデルと称してこのデザインを元にして作った限定品がリリースされたことをご記憶の方も少なくないかと思いますが、この当時のモデル自体は市販されたものではなく、あくまで映画撮影のための小道具として製作されたものでした。当初のスケジュールや予算を大幅にオーバーし、徹底的にこだわって作られたこの映画ですが、その中でいくつかの有名企業がよりいっそうリアルな世界観を描くために協力していました。"Pan American"や"IBM"と並んで腕時計では"Hamilton"がこの作品のためのプロジェクトに加わり、1960年代当時まったく存在しなかったユニークなデザインの腕時計を手がけています。 長方形で手首にフィットするようにカーブしたケースは一体になったラバー製と思われるベルトを装着し、極端に飛び出したリュウズや楕円形っぽいダイアル、ケース前面の右上にある赤いインジケーター、ケース6時側には小さな三つの丸い窓があります。何から何まで一風変わったスペーシーなルックス。まさにFuturisticなデザインではないでしょうか。
この映画で実際に使われたものはあくまでリアリティを演出するためのものなので、きちんと機能する必要はなかったかも知れませんが、内部には手巻きのムーヴメントを搭載し、腕時計として最低限動作するように作ったようです。三つの小窓の下の部分をよく見てみると左から「M、D、GMT」と表記されています。日付に加え、GMT機能まで付いていることになりますので、この辺りが見事にひと工夫されている点だと思いますが、すぐにこの窓の部分はダミーだという事に気付きます。この小さなスペースに数字を表示させるためのディスクを仕込むのはどう考えても不可能です。液晶はもちろん、まだLEDも登場していない時代ですから、ここに関しては単に「未来っぽい多機能ぶり」を演出しようとした結果だと思われます。細かいツッコミは置いといて、こうやって2010年を迎えた現在でも十分未来を感じさせる秀逸なデザインではないでしょうか。宇宙船「ディスカバリー号」内部のシーンをはじめ、あらゆる場面でリアリティを感じさせる映像が堪能出来るところがこの映画の醍醐味のひとつだと思いますが、肝心のストーリーの方はかなり難解な上にセリフも少なく、淡々と進んでいくので、途中で眠ってしまう確率の高い映画でもあります。ちなみに私は初めて観た時、冒頭の「人類の夜明け」のシーンですでに爆睡してしまいました。
ところで、この当時の腕時計といえば、手巻きや自動巻きといった機械式がほとんどでしたが、すでに電池式の腕時計も存在していました。最初に新時代を切り開いたのはハミルトンの「エレクトリック500」ムーヴメントでしたが、この作品が撮影された1960年代半ばには同じアメリカの代表的な時計メーカー"BULOVA"が「アキュトロン」という音叉式ムーヴメントを搭載するモデルをすでに世に送り出していました。それまでの機械式時計の精度をはるかに超える高性能だったため、急速にシェアを伸ばしていきます。「スペースヴュー」と名付けられたモデルは文字盤をなくし、シースルーにすることで内部のムーヴメントを露出させ、さらにそれまでの機械式とはまったく異なる回路を見せてしまうという斬新なアイデアを取り入れたモデルで、今でも何かと人気の時計のひとつです。そんな当時のブローバですが、1960年代にはNASAが正式にアキュトロンを採用したこともあったそうなので、アメリカの本物の宇宙計画と深い関係があったことを考えるとこの「2001年宇宙の旅」の中ではハミルトンに白羽の矢が立ったことがブローバ側とってはあまり面白くなかったのではないかと思ったりもします。この映画にハミルトンが全面的に協力した背景にはブローバに一歩リードされていたことや米国一の時計メーカーとしてのプライドがあったような気がしてなりません。実際はどうだったのか分かりませんが、あれこれ想像してみるのも楽しいものです。